乳香(フランキンセンス)
乳香。フランキンセンス(Frankincense)、オリバナム(Olibanum)とも呼ばれるこの香料は古くから人間社会で重用されてきました。
目次 :
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乳香の正体 - 01
乳香の正体は、樹木の表面から分泌されるゴム質の樹脂です。
この樹脂が採れる樹木(カンラン科ボスウェリア属の数種類)はアラビア半島南部や東アフリカ(ソマリア、ソコトラ島など)に自生しますが、その数は限られ、また人の手で繁殖させることも難しいといいます。
乳香の採取 - 02
採取の現場では、まず幹の表面に人の手で傷がつけられます(樹皮が削り取られます)。木は傷つけられた箇所を守るために自ら樹脂を分泌しますが、この樹脂は空気に触れることで少しずつ固まりはじめます。そのまま10日前後置いておかれ、ゴム質の塊になったところで採取されるものが乳香です。
樹木には少なからずストレスの掛かる方法ですから、秩序なく行われれば樹木全体が傷んでしまう危険もあります。乳香の採取を適切な範囲内にコントロールすることは、ただでさえ稀少な樹木を維持するために極めて重要な課題であるといえ、近時は各処で様々な取り組みがなされています。たとえば、世界最大の産出国でもあるオマーンでは現在、乳香の産出地域が政府によって管理されているそうです。
乳香と人類。つながりの歴史 - 03
乳香と人類とのつながりは古く、古代エジプトやバビロニアでは既に「神に捧げる香」として焚かれていたとされます。エジプトでは紀元前4千年頃の墳墓からも乳香の焚かれた跡が見つかっているそうですから、その頃までには乳香が重用されていたことがわかります。
アラビア半島でもまた、乳香は古い時代から流通していました。遅くとも紀元前3千年頃には乳香の交易が盛んであったことがわかっており、豊かな産出地を抱える南アラビア諸国は極めて潤ったといいます。
キリスト教と乳香 - 04
乳香の香りから教会をイメージされる方もいらっしゃるかと思います。
乳香とキリスト教のつながりは深く、聖書にもその名は度々登場します。なかでも有名なのは「イエスが誕生した際、東方から訪れた博士たち(三賢人)が、乳香、没薬、黄金を贈り物として捧げた」と記された部分です(マタイによる福音書2章)。黄金と並べられる時点で乳香の貴重さは十分に語られているといえますが、更には「乳香がイエスの神性を暗示する」ともされており、当時から乳香が貴いものと認識されていたことは間違いなさそうです。
現在でも、カトリックや正教会では乳香の香りが大切にされ、焚かれる機会も多いようです。
乳香の使われ方 - 05
乳香のもっとも一般的な使われ方は、熱を加えて香りを立てるというものでしょう。上に挙げた古代エジプトやバビロニアでの使われ方もそうしたものでしたし、現代においても、教会、モスク、シナゴーグ、そして民家やバザール、路地に至るまで、様々な場所で乳香は焚かれています。このとき一般的には、炭を熾してその上に直接、あるいは灰を薄く被せた上に乳香を乗せて焚く方法が取られるようです(日本で「空薫」と呼ばれる手法に近い焚き方です)。
近代以降になると、乳香は精油の形で利用されることも多くなりました。食品や飲料の香料、香水の原料、スキンケア用のオイルやクリームに配合される他、そのままアルマオイルとしてディフューズ(蒸散)させて香りを楽しまれることも多いようです。
また、乳香の産地でもあるイスラム文化圏では、健康促進やリラックスを目的としてガムのように噛んだり、水に漬けて飲むこともあるそうです。
乳香の効果・効能 - 06
乳香の効果・効能としてもっとも有名なものはその鎮静効果です。古い時代には鎮痛剤として利用されていたこともあるようですが、現代では主に「神経の興奮を鎮め、心を落ち着かせる」という精神的な部分での鎮静を期待して使われることが多いと思います。
また乳香には、ピネン、リモネンなどの抗菌作用をもつ物質が含まれます。抗炎症作用にも優れ、特に呼吸器系の不調を緩和させるといわれています(古い時代には咳や喘息の薬として使われることもあったそうです)。
その他にも、乳香にはさまざまな効果があるとされます。たとえば、オイルやクリームとして利用される場合はその美肌効果が期待されているようですし、水に漬けて飲まれるような場面では主に乳香の強壮・免疫力増強効果が期待されているそうです。
長く愛されてきた香り - 07
人類の歴史のなかで乳香の香りは広く長きに渡って愛されてきました。多くの人に受け入れられ、楽しまれてきた乳香の香りを、機会があればぜひ味わってみてください。
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ロードデンドロン、ジュニパー、セージなどに乳香が加えられた薬草香。疲れを感じたときにもお薦めです。 |